‘空が広く感じられる’ – 奈良を面白くするクリエイティブ・イントロデューサーサンカクカフェの山本あつしインタービュー

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地域住民やSNSで集まった人たちが一緒にDIY形式で工事を進めながら、お互い繋げられる廃園になった幼稚園のコミュニティ・スペースにリノベーションを手掛けたり、大和茶を紹介するプロジェクトでイベントを企画したり…

単純に経済的な実益を追求する企画だけじゃない、世の中の色んなことに独自の視点で意味を与え、人と場所、そして物の繋がりを大切にしながら世界に紹介している「藝育(geiiku)カフェ Sankaku」のクリエイティブイントロデュサー松本あつしさんとのEメールで、彼の’楽しい奈良作り話’を聞いて見た。

1. 山本さんは自分自信を紹介する単語として、「クリエイティブイントロデュサー」を使っていますが、どんな意味で使っているのか、CIとしてどんな仕事をして来たのかなど、いくつかのプロジェクトを通して、具体的に教えていただけますか?

「クリエイティブ・イントロデュース」とは、人・場所・事・物などあらゆる物事に独自の視点から光をあて、それまではあまり気づかれなかった、あるいは長い間忘れ去られていた本質(メッセージ)を見つけ、それを最適な方法でクリエイティブに紹介すること・・・と定義しています。そのために、文章を書いたり、写真や映像を撮ったり、またはそれを編集したり、製品や空間をつくったり、ツアーやイベントを企画したり、そのときどきでいろいろな仕事をしてきました。

例えば、約300年の歴史がある小さな商店街の魅力を、イベントとガイドブックによって紹介するプロジェクト。坂道の商店街であることに着目し、それを利用した長さ80mの「流しそうめん」を毎年夏に開催した結果、毎回2,000人近い人が訪れる奈良の風物詩のひとつになりました。また毎月一回、その坂道を店主たちが力を合わせて掃除する姿や、店主たちだけが知っている地域の昔話などを伝えるガイドブックを発行しました。そうした取組みが新聞やテレビ、雑誌に取り上げられるようになり、新しい店ができたり、移住する人が現れたりするようになりました。

約50年前に建てられた団地の中にある、今は廃園になった幼稚園の職員室をコミュニティ・スペースにリノベーションするプロジェクトでは、そこに住む人やSNSで呼びかけて集まった人たちが一緒にDIY(Do It Yourself)で工事を進めることによって、その場とそこに住む人や集まる人を、互いに紹介しながら繋げることができました。通常はスペースができてからそこに人が集まりますが、工事の過程を共有することでコミュニケーションが生まれ、スペースが完成する頃にはコミュニティが形成されていきました。

最近は奈良の名産品である「大和茶(やまとちゃ)」を、あらゆる方法で紹介するプロジェクトに力を入れています。大和茶ボトルのグラフィック・デザインを公募し、人気投票を行って採用案を決めるイベントを企画したり、お土産用ティーバッグのパッケージ・ディレクションをしたり、駅前の広場や公共施設で観光客向けのテイスティング・イベントを企画するなど、様々な取組みを行ってきました。また生産者から聞いた大和茶の特徴を、文房具を使った「見立て」によって直感的に伝える展覧会や、それをまとめた本によって紹介することで、これまでリーチの難しかった層、例えば若者や外国人の方にもアピールすることにも挑戦しています。さらに最近は、生産者と共に早朝の茶畑に出かけて茶摘みを行い、そこで採れた茶葉を手揉みし、丸一日かけて製茶する体験型ツアーの企画も行っています。

 

2. これまでどれだけの時間をかけてクリエイティブ・イントロデューサーの仕事に携わってこられたのか、また、主にどのような方々を対象にして、活動されてきたのか、教えていただけますか。
クリエイティブ・イントロデューサーと名乗り始めたのは2013年からなのですが、今思えば、クリエイティブ・イントロデュースを始めたのは、アーティストの友人の展覧会を自宅で始めた2007年からです。

その頃は住宅建材の販売や設計・施工の仕事をしていたので、プロデュースした自宅をモデルハウスにし、たまにオープンハウスをしていました。しかしあるとき、建物ではなくその中でどう住まうかを提案していくことのほうが大切なのではないかと考え、「美術館に住む」というテーマでアーティストの友人の展覧会を開催しました。そうすることで建物だけでなく、アーティストのことも、展覧会を自宅で行うというようなライフスタイルも紹介できると考えたのです。

「対象」についてですが、特に考えたことはありませんでした。あえて言うなら、紹介するべき価値があるのにうまく伝えられていない、すべての人・場所・事・物などあらゆる物事・・・でしょうか。

 

3. この活動の契機は自宅であるaalaboでの展覧会だったそうですが、それはどんな展覧会であり、どうやって今まで持続的な活動することになったのか、そしてその後サンカクカフェをオープンするまでの経緯を聞かせてていただけますか。サンカクカフェでは月に何回程度の展示会や講演などが行われていますか。

2番の質問でも答えたように、モデルハウスでもある自宅にゲストを招き、たまにオープンハウスを行っていましたが、家という「容れ物」ではなく、そこでどんな生活をしていくのかを提案するべきだと考えるようになったことがすべてのはじまりでした。2007年、「美術館に住む」というコンセプトのもと、家の中でアーティストの知人による展覧会を開催。その時は大好きなアートが、日常の中にある暮らしを形にしたいと考えたのでした。そして訪れたゲストに、作品を見るだけでなく参加してもらおうと、アーティストと一緒に行うワークショップも企画するようになりました。そうやって長居するようになると、みんなお腹がすいてくる。そこで、結婚前はパティシエをしていた妻にケーキをつくってもらったのを出したら喜んでもらえた。そのうち軽食も出すようになり、気がつけば地域の人も自然に集まるようになってきました。藝育カフェ Sankakuの原点は、こうして生まれたのでした。

そして文化芸術を軸としながら食と組み合わせ、地域に根差すというビジネスを始めることを考えました。きちんと事業にするなら奈良市の中心市街地でと考え、2010年4月、自分の住む奈良市の中心市街地にある商店街が運営するインキュベーション施設の10坪のスペースでSankakuを開店しました。当時の奈良には、気軽に展覧会が開けるカフェのような場所がなかったので、これはやるべきだと考えたのでした。

4. カフェ Sankakuに参加する「表現者」の方々も、募集をかけて、直接選ばれていますか?

「藝育(geiiku)カフェ Sankaku」は2010年4月にオープンし、2013年までの3年間で約130本の展覧会と、その他数え切れないほどたくさんのイベントを開催してきました。1〜2週間スパンで展示を入れ替えるという、今思えばかなりハイペースな運営をしていました。最近はペースが落ちましたが、Sankakuで何かを表現したいと言ってくださる方とじっくりと対話しながら、一緒に展覧会やイベントをつくっていきたいという気持ちは基本的に変わっていません。それは「オーディション」というよりも「お見合い」に近いかもしれません。

5. この活動をされてきた中で、やりがいがあったこと、また感動されたエピソードなどがあれば、ご紹介いただけますか?

若い頃は、「奈良なんて何もないところ」と思いこみ、大阪や京都、東京などきらびやかな都会に目が向きがちでした。そんな意識が変わったのは、この仕事をするようになってからのこと。特に今から5年前、奈良市の東部山間地域を初めて訪れたことから、その自然の豊かさや人々の暮らしぶりに惹かれていくようになりました。

特に茶畑の造形的な美しさには息を呑みました。山の斜面に沿って流れる緑のラインは、まさに人と自然が共存する中で生み出した芸術作品だと感じたのでした。自分の住む奈良市にこんな風景があることに感動しましたし、それをもっとたくさんの人に伝えたいと思いました。

奈良県に住む人はよく、大阪府や京都府で働き、地元には寝に帰ってくるだけの自分たちのことを「奈良府民」(本当は奈良「県」民なのですが、まるで大阪「府」民や京都「府」民のようなので)と揶揄します。少し前までは私もその一人でしたが、今ではそんな「奈良府民」の人たちにこそ、自分の住んでいる町の素晴らしさに気づいて欲しいと思うようになったのでした。

6. 奈良市で活動を展開することの強み、または、不利なところはどういった点だとお考えでしょうか?

人の意識が豊かであること。ますます経済重視に傾いていく世の中にあって、それよりも大切なものがあると知っている人が多いと感じます。そしてその大切なものとは、「文化」です。

7. CIの活動中にご自身や周辺のコミュニティーの中で、何か変化を感じることはありましたか?

自分

クリエイティブ・イントロデュースがますますおもしろくなってきました。

周辺

最初は「何をやっているかわからない」と言われることが多かったですが、だんだん理解者が増えてきて、いろんなジャンルのプロジェクトに声をかけられるようになってきました。

移住者やUターンで帰ってくる人を中心に、クリエイティブな活動をする人が増えてきました。

8. これからチャレンジしていきたいことはどのようなことでしょうか?

クリエイティブ・イントロデュースを実践している世界中の人に会いに行って、お話を聞きたいです。

クリエイティブ・イントロデュースを実践しているうちに、そういうことをしているのは私だけではなく、きっといろんな場所にいるのではないかと考え、そんな人たちに出会ってみたいと思うようになりました。そんな人たちや、そんな人たちの仕事に出会うことで、自分がやっている「クリエイティブ・イントロデュース」をまた見つめなおすことができるのではないかと思います。WCOでもいい人がいらっしゃったら、ぜひ紹介してください(笑)