1軒丸ごと朝鮮韓国在日の資料がいっぱい、みんなのまち街の人権図書館

후지이1

「猪飼野セッパラム文庫」と藤井幸之助さん

2015年5月、大阪市生野区にほど近い天王寺区細工谷(さいくだに)に藤井幸之助さん(56歳、同志社大学嘱託講師)は「猪飼野セッパラム文庫」を開設した。細工谷と言えば、上町台地の東端にあって、百済からの渡来人のゆかりの地でもある。

学生の頃から個人的に収集してきた「韓国朝鮮在日」に関する関係書籍や雑誌・チラシ・パンフレット類・CD・DVDなどの資料1万2千点をそろえた。

かつてあった猪飼野という地名を継承し、新しい風(セッパラム)を吹かせたいという意味をこめて、文庫の名前にした。


──文庫を開設されたきっかけをお教えいただけませんか?

1980年代前半、大阪外国語大学朝鮮語学科の学生だった頃に、学科主任の塚本勲教授と朝鮮語研究室のスタッフたちが運営されていた猪飼野朝鮮図書資料室(朝鮮語講座も運営)にボランティアとして関わるようになったことがその原点といえるでしょう。資料室を訪ねてこられる方々と出会って、すごく刺激を受け、多くを学ばせてもらいました。そして、それからほぼ30年以上になりますが、その時の経験の延長線上に現在のぼくがあります。在日朝鮮人のみなさんとの出会い・触れ合いがぼくの生き方を変えてきました。

その後、同じ鶴橋にあった、在日2世の大学院生たちが運営していた学林図書室にも関わるようになりました。そこでは毎月学習会が開かれ、それが後に「在日朝鮮人研究会西日本部会」となりました。それをまた「コリアン・マイノリティ研究会」と改称して、「猪飼野セッパラム文庫」で受け継いでいます。

鶴橋付近にはその他にも、「青丘文化センター」「カラ文化情報センター」など、在日関連施設があったのに、今ではひとつも残っていません。そこでそれらの志を受け継ぎ、次の世代に伝えたいと常々思っていました。東淀川区の阪急淡路駅に近い自宅横の築70年を越える民家を借りて、長年収集してきた資料などを置いて、研究会も継続していたのですが、賃貸契約が切れて途方に暮れていたところ、家を安価に貸してくれる人が現れたのです。しかも、希望していた「猪飼野」の近くの細工谷に。ここで新たに“みんなのまちの人権図書館”を目指すことになりました。

──文庫開設の目的について、もう少し詳しく話していただけませんか?

ちまたでは朝鮮韓国在日に対する無関心や無知から来るヘイトスピーチがやみません。今こそ人々に正確な知識を伝える必要があります。特に若い人たちに対して積極的に働きかけて、正確な知識に基づいてとともに考える場を作り上げていかねば大変なことになります。様々なマイノリティに目が向く社会こそ本当に豊かな社会、それを次世代に伝えたいのです。実はそうしたことをぼくに教えてくれたのが、先に触れた数々の私設図書館、研究会や出会った人々との触れ合いだったのです。その恩返しのためにも微力を顧みずに、文庫の開設に踏み切りました。

──主にどのような活動をなさっているのでしょうか?

図書室としては、土曜日の午後1時から5時まで開館していますが、要望があればできる限りそれに応じています。特色としては、1970年代以降の在日の文化、教育などに関する活動の資料(民族団体・民族学校・運動団体関連資料・行政外国人施策関連資料・民族まつり・マダン関連資料・モノ)などと、一般の図書館では見られないものが多数あります。

 次は、出会いの場所としての役割です。先にも触れた「コリアン・マイノリティ研究会」に加えて、「映像で見る朝鮮韓国在日」上映会を、それぞれ月1回開催しています。そこには研究者や学生・教員はもちろん、多様な階層・世代・民族的出自の方々が5名~15名程度参加しています。年齢的には高校・大学生から70代の方々までいます。

 研究会は、在日朝鮮人関係をテーマにした大学生の卒論指導も兼ねています。希望する学生には、専攻研究や図書のレファレンス、研究者やインタビューの紹介などもしています。まずは10月ごろに中間発表をしてもらい、参加者から意見をもらい、それをしっかりと反映した卒論の完成のお手伝いをします。卒論提出後、2月か3月に本発表してもらいます。学生にとってはすごく為になると思います。所属ゼミ以上の効果をあげているのではと自負しています。

その他にも、以下のような多様な活動を行っています。

① フィールドトリップ・猪飼野セミナー・ワークショップ・講師派遣。

② 情報満載の「朝鮮韓国在日・これからの催し」を毎週月・木2回、メール配信。

③ 韓国手話講座開講(朝鮮語講座も開催予定)。

④ 「猪飼野アクセスマップ」(『季刊Sai』、1992年)の改訂作業。

⑤ 他のミュージアム(高麗美術館・京都市人権資料展示施設「ツラッティ千本」など)への資料やモノ(チョゴリなど)の貸与・映画製作(『焼肉ドラゴン』制作スタッフに情報提供、関連地案内)などへの協力。

⑥ 書籍委託販売・古本販売・グッズ販売。

──これまでにうれしかったこと、苦しかったことがあればお話しください。

友人知人、見知らぬ人々からの数々の支援・協力がありました。業者の力を借りずに、これだけの大量の図書・資料を運びこみ、なんとかおさめることができたのですから、人の環の力はすごいものがあることを痛感しました。

ホームページも、ぼくの授業のもぐり学生だった人が作成してくれました。

現在、会員は60名ほど。それで運営経費が十分ではありませんが、ありがたく感謝しています。

──運営の困難や問題点、あるいはおもしろそうなことがあれば、お話ししていただけませんか?

課題は二つです。運営資金が不足しており、足りない分は自腹を切っています。新たに本を購入することは今のところ不可能です。ただ、ありがたいことに、開館以降、さまざまな方から貴重な図書・資料の寄贈を受けてきています。

今後も資金難が続くことを覚悟していますが、会員拡大とカンパの要請をしながら、なんとか手立てを講じようと思っています。

もう一つは高校生・大学生など、若い人の参加を望んでいるのですが、なかなか思うようにいっていません。高校の人権担当の教員の来館もあり、大学のゼミ単位で見学に訪れる学生たちもいるので、今後はその方向にも働きかけを強めたいと思っています。

幸い、この地域は高校が多く、在日朝鮮人集住地域とも近いという立地条件もあるので、それを十分に活用したいと思っています。

この夏休みには、ある府立高校の教員が図書委員会の生徒たちを連れて来て、資料整理や文献目録その他の協力をしてくれるということになっており、明るい光もさしてきました。

 3階には寝泊まりできるスペースを確保していて、生野区での調査を希望する研究者に活用してもらっています。去年は韓国の弘益(ホンイク)大学校の大学院生がしばらく滞在して、フィールドワークをし、帰国後、博士論文を完成させました。先日、彼女は完成した論文を持ってきてくれました。現在は、アメリカのイェール大学の学生が滞在中です。彼は韓国で1年半、朝鮮語の語学研修を受けながら、現地でヒップホップダンスを学び、大阪ミナミのヒップホップダンスが日本で最も先端的とのうわさを聞いて、大阪にやってきました。今は日本語を学びながら、ママチャリでミナミに通っています(笑)。

──今後の抱負をお聞かせください。

文庫を今後長く継続するには個人では限界があります。法人化も考え、何らかの形で引き継いでもらえるように考えていきたいです。

所蔵資料に関しては、パンフやチラシ(スキャンしてデータベース化の予定)を特色として、“チラシ図書館”をアピールしていきたいと思っています。図書・資料を整理して、全体の目録を作っていきます。

とにかく、若者たちを巻き込んで、マジョリティもマイノリティも関係なく出会い、ふれあい、そして対話しながら共に学べる場をつくっていきたいと思っています。みなさん、まずは一度遊びにいらしてください。

猪飼野セッパラム文庫は地下1階・地上3階建ての民家にある。(提供:猪飼野セッパラム文庫)

猪飼野セッパラム文庫 大阪市天王寺区細工谷2-14-8 http://sepparam-bunko.jimdo.com/

近鉄「上本町駅」から8分、地下鉄「谷町九丁目駅」・JR環状線「桃谷駅」から10分

土曜日午後1~5時開館。入館無料。事前に連絡すれば、それ以外でも可能な限り対応。図書の貸出しは会員制で、個人会員は年額6000円、維持会員は1万円、一口会員は1000円(何口でも)、高校・大学生会員は無料。