【インタビュー】 松村嘉久さん vol.2

2015年9月西成WAN第二

「衰退した日雇い労働者の街から、労働者と地域住民、そして外国人観光客と日本人観光客とが交流して共にいきいきと暮らす社会へ!」


──地域の活性化についてもう少しお話いただけますか。

 

宿泊所経営者、町内会の人々と、(仮称)萩之茶屋地域周辺まちづくり委員会を結成して、地域の再活性化の可能性を模索し、実際に欧風パブ「KAMA PUB」(現在は休業中)を運営したり、西成ジャズや、今までになかった新規の店の呼び込みも図っています。その一方で、地域環境の改善を求めて行政に積極的で具体的な提言をしています。その結果、警察が本気で取り組みだすと、薬物や賭博などの犯罪の危険がすっかり影を潜めるなど、確実に環境、安全性が高まるようになりました。

その他では、地域の子供たちも巻き込んで、街創りのプロジェクトも進行中です。落書きの街から観光名所へ!という構想で、2014年10月には、西成アート回廊プロジェクト(西成WAN)を立ち上げました。

 

増殖していく落書きの上に、プロのアーティストと子供たち中心になって壁画を描き、観光スポットにするとともに、地域の人々が楽しく暮らせる街を創ろうというのです。幸いにも南海電車のご協力で、高架路線の壁に絵を描きました。1回目の2015年1月の経費は材料15万円で、ボランティアの協力によって長さ50メートルの巨大アートが完成しました。子供も50人以上が参加して、「ここから、いまから」というメッセージを絵に塗り込みました。

 

第2弾としては、日本最大級の高さ7メートル、幅約70メートル、総勢200名、およそ2週間にわたる長丁場、スプレー缶600本で、「アセラズ、クサラズ、アキラメズ」というメッセージを塗り込みました。この企画の中心になっているヒップホップアーチストのSHINGO★西成(普段はしんごさんと呼んでいる)の歌詞、「自分たちのまちは自分たちでつくる 今できるコトを今できるヒトが まちをキレイに ココロをキレイに」がその意図を表しています。費用はクラウドファンディングで募り、絵を描く壁についてはドナー登録を呼びかけ、これまでに駐車場の壁など4か所の登録があり、今後、随時、描いていく予定です。

 

──最後に、今後の展望あるいは課題などをお話しいただけませんか。

 

西成のなかでもあいりん地区の問題を見渡すと、難しい問題がたくさんあります。生活保護の問題もあるし、まだまだ野宿されている方もいますし、現役で頑張っている労働者の方々もいて、複雑です。ただ私が担当する観光振興については、2016年度に18万泊というすごい数字になって、ホテルの稼働率がパンパンになっています。だから、労働者向けの宿泊所も、将来は労働者が減っていくことを見越して、外国人も受け入れる方向に変わっていったり、既に福祉マンションに業態変更しているところも、いつまでもその種の経営は難しいだろうから、もういちど簡易宿泊所に戻って外国人を受け入れるようにしてくれるといいのですが・・・。

西成区のあいりん地区はそもそもが個人客だけを狙っていたところなんで。そこに外国人の個人客が集まってきて、それがある一定の数まで増えて来ているということで、一つの実験場だと思っているんですね。個人客の行動パターンをどういう風に把握して、そのニーズをどうとらえて、何を提案していくのかが、今後、日本の観光立国、大阪の観光を支え、発展させるうえで不可欠ですね。 

実は日本人旅行客も既に40万泊くらいに増えていて、「ここ楽しいやん、面白いやん、思ってたよりもずっと物価も安いし、家賃も安いし、ここで過ごそうかな」みたいな人がもっと増えてくることを願ってます。

 

今後、あいりん地区センターの建て替え工事など、そしてゴージャスなリゾート施設の開発・経営で有名な星野リゾートによる大規模リゾートの建設などによる環境の激変が予想されており、それをどのように好機にできるか。僕自身は「新今宮地区観光まちづくり推進協議会会長」の立場から、それをも巻き込んだ街づくりの方向性を模索中です。

星野リゾートは1万4千平方メートルに600室規模のリゾートホテルで、大浴場、あべのハルカスを望めるレストランやバー20階建ての計画のようですが、その進出で心配なのは、過度な地価上昇やおしゃれな空間創出が進むと社会的弱者が住みづらくなりかねず、星野リゾートが官民で作る検討会議などに参加して、地域の課題解決に協働していただけたらと、僕らも努力しているところなのです。

──インタビューを終えて

 

最初は松村さんにとって、そこは故郷、或いはそれに類するもので、故郷愛のようなものに突き動かされての活動なのかなと思っていたのだが、必ずしもそうでもなさそうである。松村さんの活動の原点には、他の視点がありそうなのである。その創造もしくは活性化に自分も関わり、しかも、自分の多様な能力と努力がその一助になる可能性があるからこそ、やり甲斐がある街。とすれば、既に故郷など失ってしまっていることが多い現代人にとっての、故郷のありうべき類型として参考に値するように思われる。

まちの再活性化、あるいは「まち興し」には松村さんの存在が不可欠なのではないか。その中心には内部の人々の自生的な活動が必要だが、それだけでは無理が多い。「外部」、からの力強い助っ人が必須なのである。地域の人たちが彼を先生と呼ぶと言うのもその証左かもしれない。外部の視点、外部の関係性、外部の感受性がその人を媒体として内部に導入される一方で、内部からのメッセージがその媒体を通して外に向けて発信されうるからである。しかも、内部の人々の負担は、その外部と内部とを往来する松村さんのような存在によって、大いに軽減されうる。地域の人々、例えば、「しんごさん」と松村さんとの共同作業は、そのシンボルと言えそうである。街を案内してもらい、話を交わしているうちに、本当にいい経験をさせていただいたと感謝、感謝であった。

<数字で見る地域の状況>

① 西成区事情:2012年現在で面積7,4平方キロ、人口12万人。65歳以上が35%と大阪市内で最も高齢化が進み、生活保護所帯も区内全世帯の34%と大阪市内で最多。

② 日雇い労働者数の変化:日雇い労働者は1980年代2~3万人、今は5000~7000人。

③ 簡易宿泊所の変遷:ピーク時はあいりん地区で簡易宿泊所が200軒を越えていたが、一時は70軒ほどまでに激減し、稼働率も5割を切る状態だった。しかし、インタビューにも見られるように、あいりん地区の格安簡易宿泊所60施設のうちの18施設1800室が外国人旅行者向けに業態変更した結果、外国人旅行者が一気に増えた。

④ 日本の外国人旅行客の変化:訪日外国人旅行者が2020年までに2500万人に達した場合、2014年の客室数のままだと、近畿で2万3476室が不足すると(みずほ総研による試算)、特に大阪は1万4千室が不足する。

⑤ 大阪府の観光客数の変化:2014年に76万人、2015年には上半期だけで320万人、府内の客室稼働率は14年10月から全国トップの状態で、2015年の大阪府の稼働率は90,4パーセントで2位の東京都(83.6パーセント)を大きく上回る。

⑥ 大阪市の宿泊施設の現状:2017年3月末現在で、ホテル342軒、旅館376軒、簡易宿泊所292軒。ただし、旅館登録の多くはラブホテル化している。その一方で、簡易宿泊所が目立って増えているのだが、これは外国人向けのゲストハウスであり、西成地区がその尖端的なモデルになっているものと思われる。