【インタビュー】 松村嘉久さん vol. 1

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「衰退した日雇い労働者の街から、労働者と地域住民、

そして外国人観光客と日本人観光客とが交流して共にいきいきと暮らす社会へ!」


──すごく多様な活動をすごく活発に展開されているようですが、その契機はどのようなものだったのですか。

大学生時代に休学を繰り返して世界中でバックパッカー旅行を楽しんでいました。そのせいで卒業に9年もかかったのですが、安宿の便利さ、旅行者にとって必須な情報の入手の方法、人とのつながり方など、多くを学びました。学問的にはインナーシティという概念があって、都心に近いところでポツンと取り残されたようなところがどの街にもあります。老朽化して場末感が漂っているけれども、安ホテルやワクワクすることがいっぱいあって・・・西成やあいりん地区のことも知ってたんで、ああ、似てるなあこの街って感じで・・・

大学院時代に通っていた1998年に、大阪市の委託を受けた研究者グループ(大阪市大地理学関係)、大規模なホームレス調査に1年ほど関わりました。野宿生活者に、何故、野宿しているのか、何が問題なのか、どういう条件が整えば野宿から脱却できるのかなどの調査をして回ったのです。結果的に総計8660人の調査をまとめ、それがその後の施策などに活用されることになります。例えば、その人たちに生活保護を受給させるために簡易宿泊所の福祉マンションへの業態変更が進んだりしました。

その調査の過程で僕としては、衰退する労働者街である釜ヶ崎一帯の観光のための宿泊拠点化の可能性に目が開きましたし、地域の人々とも一定の信頼関係ができました。なかでも、簡易宿泊所の若いオーナーが、バックパッカー旅行の経験者だったこともあって、簡易宿泊所を廉価な外国人向け宿泊所に変換し、地域を活性化する協力を求められました。そこで、志を共にする13軒の宿泊所のオーナーその他と語らって「大阪国際ゲストハウス地域創出委員会(OIG)」を2005年に立ち上げたのです。

そしてネットを用いて積極的に広報を始めると、予想以上の反響を呼んで、今や、その一帯は外国人の宿泊所の一大拠点となっています。集計に協力する施設(8~9軒)だけでも、2004年の約9293人から2016年には176,467人、未集計分も含めると、20万~25万にも上ります。

経営者の皆さんも、インターネット環境、洋式トイレ、シャワールームの新設、畳のフローリング、ベッドの導入などの投資、さらには世界的なサイトに登録したり・・・この13年間で労働者向けの簡易宿泊所のおよそ20軒が外国人旅行客向けホテルに変わりました。

例えばこうです。古ぼけた建物だけど、一歩足を踏み入れるとお香の芳香が漂い、柔らかな照明に包まれた壁には、民族調のタペストリーが飾られたり、客が描いたアートが壁一面を占めていて、英語の案内が貼られたフロントでは、若い女性スタッフが、滑らかな英語で外国人旅行者に対応しています。1泊2000円程度で、布団を敷けばそれだけでいっぱいの小さな部屋でも、畳は青々と新しく清潔で快適です。「コモンルーム」には大型テレビやソファがあって、宿泊客の多くはそこで寛ぎ、調理器具や調味料もそろったキッチンで自炊もします。共同のトイレやシャワーも掃除が行き届いています。そのホテルだけで今では年間4万人が宿泊し、その9割が外国人です。ホテル側では、サービスで書道教室やたこ焼きパーティなども開き、夜は従来からの大衆演劇の公演に加えて、界隈のどこかの店でジャズのライブが開かれ、「西成ジャズ」として定着してもいるのです。

──次いでは、観光学の専門家としての立場からのご意見を伺いたいのですが。この地域の魅力、今後の発展の可能性などについてお話していただけませんか。

この地域は、老朽化した木造家屋が密集し、歴史にゆかりのある地名があり、大衆演劇の劇場が三か所もあるなど、昔、特に昭和の香りが濃厚な一方で、ジャズの生演奏も随所で楽しめるところです。通天閣まで歩いて5分、環状線の駅にも近く、奈良や京都さらには関空へのアクセスも便利など、立地条件がすごくいい地域なのです。

それに、歩いて楽しい地域です。近隣の阿倍野も、高層のハルカスは超現代的でキレイなところですが、ちょっとはずれに行くと、ごちゃごちゃとした楽しい飲み屋さんもあります。西成区の方へ下りてくると、面白い飲み屋さんのワンダーランドみたいなところもあるし、特に新世界はなんとも魅力的な街で・・・ずっと行くと、黒門市場へ出て、千日前へ入って・・・これで散歩コースが出来上がると嬉しいですね。

外国人の方たちがね、意外とそういう感覚があって、マップさえあればみんな歩くんです。ですから、新今宮を拠点に、歩いて帰って来るコースとか、ちょっと電車に乗って行って帰って来るコースなどを数多く発信したいんです。そうすると、みなさんが新今宮にハマり、そうなると旅行客の宿泊日数が延び、そうすればまた、地域でお金を使うようになるでしょう。昼は京都、奈良に向かう外国人客を夜は地元の店に呼び込みと同時に、日本人観光客も増やそうと努力しています。外国人が増えれば街のイメージも変わり、西成に住みたいと思う日本人も増える。このチャンスを生かすために、行政にはホテルや旅館などへの支援を進めるように働きかけています。

──地域の人々だけでなく、多様な人々を巻き込んでの活動のようですが、特に、松村さんのゼミの学生の皆さんの参加についてお話していただけませんか。

ゼミで観光学を指導している学生を巻き込むことについてはすごく悩みましたが、若いアイデアと行動力はこの地域にとって必要だというだけでなく、学生たちにとっても一種のインターンシップとして、すごく貴重な体験になると考えて、学生たちに相談したのです。すると「やってみましょう」という力強い返事をもらって始めました。その時も含めて、これまで学生たちから多くのことを教えられました。そこで2009年1月から新今宮駅近くで、無料の「新今宮観光インフォーメーションセンター(TIC)」を運営しています。学業の妨げにならないように、週末と長期休暇時に限って年間150日くらい、10名から20名でシフトとをつくって、1日あたり多い時で30名ほどの外国人旅行者が実に多様な相談を持ち掛けてきて、学生たちも一緒になって調べたり、案内に励んでいます。7年間でノート41冊分、約2万人の相談に応じてきました。

その他、いろんなイベントも行いました。例えば、「よそ者」である学生と地域の財産とが新しいアイデアでつながるようなイベントです。大衆演劇、上方落語、西成ジャズなどをまとめて、「西成LOVEフェスティバル2012」と銘打ちました。

次いでは、「新世界・西成食べ歩きMAP」を大阪商工会議所の依頼で作成しました。学生たちが実際に店を訪問、値段、おすすめポイント、営業時間などを書き込んでいます。25名が9カ月かけて、36の飲食店を紹介しています。表は日本語、裏は英語。そして改定中国語版の作成もしています。1万2千部作製して、ホテルなどに置いています。

それに、ホテルだけではなく地域の活性化が必須なのです。そのために、地域が悩んでいる事柄にも積極的に関わってきました。例えば、あべのハルカス一帯の放置自転車に住民も行政も困り果てているのですが、対策をしようにもきちんとしたデータがありませんでした。官民を合わせると5800台収容の駐輪場があり、そのほとんどが最初の二時間は無料なのに、何故か街路が放置自転車であふれている。駐輪場には1700台分の空きがあったのに、1200台の放置自転車が・・・学生たちの詳細な調査結果をもとにして対策が練られています。さらには、そうした経験を買われて、南海電鉄と連携して、関空に近い田尻町エリアガイドブックの作成も行いました。漁港の日曜朝市、地元名所、おすすめスポット、そして。りんくうタウン駅を起点に所要時間別にコースの紹介もしています。ポスターも英語版と日本語版を作成しました。